本記事は、立命館大学が株式会社イノアックコーポレーションからの研究委託および資金提供を受けて実施した研究の試験結果に基づき構成しています。
✎執筆者プロフィール
岡田 志麻(おかだ しま)
立命館大学 理工学部 ロボティクス学科 教授。
生体工学を専門とし、睡眠計測にも長年取り組んでいる。
私たちは日々、「しっかり寝たはずなのに疲れが残っている」「同じ時間寝たのに、朝の調子が違う」と感じることがあります。こうした経験から、睡眠は単に時間の長さだけで決まるものではない、と実感している方も多いのではないでしょうか。
近年、睡眠は単なる休息ではなく、身体や脳を整えるメンテナンスの時間として考えられるようになってきました。
中でも注目されているのが、寝ている間の「睡眠環境」です。
特にマットレスは、睡眠中の姿勢や身体の支え方を大きく左右する重要な要素です。
これまでの研究では、マットレスの構造による身体の支え方の違いによって、睡眠中のエネルギーの使われ方が変わり、余計なエネルギーを使わずに眠れるケースがあることがわかってきました。
睡眠中のエネルギー配分と、朝の回復感の関係
睡眠中、私たちの身体は完全に休んでいるわけではありません。呼吸や心拍を続けながら、無意識のうちに筋肉の緊張を調整したり、姿勢をわずかに変えたりしています。もし、身体を無理なく支えてくれる環境で眠ることができれば、こうした無意識の調整に使われるエネルギーは、少なくて済む可能性があります。実際に、特定の構造を持つマットレスでは、睡眠中の消費エネルギーが低くなる傾向がみられました。これは、身体が余計な力を使わず、より「省エネルギーな状態」で眠れている可能性を示しています。
言い換えると、身体が無理をせずに休めている状態に近いとも考えられます。
現在はさらに、睡眠中の状態が「翌朝の身体の動き」にどのようにつながるのかを調べるため、体のふらつきを測る方法(重心動揺)を使って、起床後の身体の安定性を評価する研究を進めています。
今はデータの数が多くないため、はっきりとした結論を言える段階ではありませんが、 マットレスの違いによって起床後の身体の動きに差が出そうだ という結果が見え始めています。
今後、検証を重ねながら「どのような構造が、どのような人に、どの程度影響するのか」を慎重に評価していきます。さらに、睡眠中のエネルギー消費や本人が感じる回復した感覚と組み合わせて評価することで、「回復しやすい睡眠環境」とは何かを、より客観的に捉えられるようになることを目指しています。
疲労回復の視点から考える、これからの寝具選び
これまでマットレスは「硬さの好み」や「寝心地」といった主観的な評価で選ばれてきましたが、これからは、睡眠中、身体がどれだけ無理なく支えられているか、余計な調整をしなくて済んでいるかといった睡眠中に身体がどうなっているのか、そして翌朝どんな状態で起きられるのかという実際の変化に基づいて寝具を考えることが重要になると考えています。
今後も、生理指標や身体機能のデータをもとに、「科学的に説明できる回復しやすい睡眠環境」の実現に向けた研究を進めていく予定です。学会などで研究成果の発表が進み次第、あらためて皆さまにお伝えしていく予定です。
※本コラムは研究の考え方や方向性を紹介するものであり、特定の製品の効果や効能を示すものではありません。